えるのか、あいよ。」
勇は最初答えようとしなかったが、うるさく言われて、
「はア、東京さなんど行かねえよ、こんどは遠いところさ行くんだ」と何かしら母に気がねするように、しかしわざと聞かせるかのようにも言うのであった。
おせきはそのことを感じて、
「勇ら休暇かい。それとも何か用があってかえって来たのかい。」竃の前から訊ねかけた。
「うむ――」と勇は生返事した。
勇を北満の開拓にやってもらえまいか、ということは村の青年学校の先生からの、前々からの懇望だったのである。勇にもその気がないことはなかったのだが、事情はそう単純には出来ていなかった。なるほど青少年義勇軍とかに入れば、別にこれという金は要らず、訓練から渡航、開拓……と順序を踏んで、やがては十町歩の土地持になれる。そのことは願ってもない仕合せであったが、当面、勇にいくらかでも――たとい月十五円にせよ、働いて入れてもらわなければ、家が立ち行かなかった。食う口を減らすと同時に十五円の入金――それが一先ず勇の叔父のつとめていた会社へ当人を出してやった一つの理由だったのだ。
が、今では由次が勇と代ってもよかった。ばかりでなく勇自身が、工
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