、婿なんどに身上引っかき廻されて、それでこの俺が、黙っていられっかっちんだ。これで俺ら、人に後指《うしろゆび》さされるようなこと、まあだした覚えはねえんだと。このでれ[#「でれ」に傍点]助親父。」
おせきは遠くの田圃にいる人々が首をもたげたほどの声で、家付娘の特権を振りまわした。
「ばか阿女、いくらでも哮《ほ》えろ」と浩平は気圧《けお》され気味で、にっと笑った。「山の神なんか黙って引っ込んでいればいいんだ。何のかんのと差出がましいこと言うのを、俺の方の村では雌鶏めとき[#「とき」に傍点]吹くって笑うんだ。雌鶏とき吹くとその家に災難があるって、昔からこの辺でも言ってべ。」
「何だと、きいた風なこと吐かしやがって、汝《いし》ら、はア、俺家のおっ母とでもいっしょになれ……今日限り、縁を切っから、はア……」
おせきは地団太を踏んで、歯をぎりぎりとかみ、熱い涙をはらはらと飛ばした。
「おっ母さん、はア、勘忍して……おっ母さん、よう勘忍して……」とおさよが、泥手のまま夫に武者ぶり付こうとする母のあとから、いきなり縋《すが》りついた。
六
次の日、長男の勇が東京の工場からひょっこ
前へ
次へ
全47ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
犬田 卯 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング