えと思ってよ。」
この女房の一言はぐさりと浩平の胸を刺した。
「なに、もう一遍言ってみろ。」
ぐいっと向き直ったが、おせきのぎらぎらする両眼に打《ぶ》つかると、浩平は矢庭《やにわ》にそっぽを向いた。
「一遍でも百遍でもいうとも。こんな肥料、いくらで、誰から買ったか知んねえけんど、これが丁満《ちょきん》に利いたらお目にかからア。」
何か言いかえすかと夫を見たが、そっぽを向いたまま知らん振りで、相変らずばらばらと撒きつづけているので、おせきは威丈高になった。
「こんなもの、いくらで買ったか知らねえが、よくもそんな腐れ肥料買う金があったことよな。まさか、その金、どこからかぬすと[#「ぬすと」に傍点]して来たわけじゃあるめえが、よく借りるところがあったことよな。」
暗に母のところを指したこの針をふくんだ一言は、またしてもぐさりと浩平をえぐった。
「どこで借りようと、誰に借りようと、お前らに心配かけねえから……」
「心配かけねえ?」
「かけねえとも――」
「ふん、そんな、はア、水臭えこと抜かしやがるんなら、さっさと俺家出てもらアべ、婿の分際も弁えねえで、心配かけねえとは何事だ。自分勝手に
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