ことに思いを及ぼし、まざまざと母の烙印を見たように思ったのだ。気を取り直して田へ行くには行ったが、おせきは胸が静まらなかった。覚束《おぼつか》ない手つきで苗を取っているおさよの、そののろのろした不器用さまでが癪に触った。
「そんな取り方で植えられっか、このでれ[#「でれ」に傍点]助阿女――」と彼女はいきなり叱りとばした。「こういう風に指先で分けて取るんだ。馬鹿、俺らお前の年には、はア、どんな仕事でも大人並に出来たど。婿の二人や三人貰ってもびくともしねえ位の気持だったど。このちんちくりん奴。」
 代掻《しろか》き器械を扱いかねている由次と勝の動作にも同様に腹が立った。
「馬鹿野郎ら、そんな風に把手を下げる奴があるもんか、空廻りしちまって何度やっても駄目だねえか。把手を上へあげて、上へ……。汝《いし》ら、はア、いくつになると思ってけっかるんだ。一人前に大飯ばっかり喰いやがって、このでれ[#「でれ」に傍点]助野郎ら。」
 やがて浩平が牛車で肥料の叺をいくつか積んで来て、それを代田《しろた》の近くに持ち運び、黙ってその口をあけ、そして灰桶へあけては、ばらばらと由次と勝が掻きならした田の面でばら
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