べて田植もすれば、畑の作入れもし、野良で、同じお櫃《ひつ》の弁当も食べた。
――二人の仲が変だ、というような噂が村を走り廻った。そしてそれはおせきの耳へも入らずにはいなかった。ばかりでなく浩平が身のほども知らぬ新しいシャツなど着ていることがおせきの眼にとまったこともあり、金銭上のことでも母と夫との間に、時々共通の出費があるのを発見したこともあった。
そんな事情で、おせきは浩平との口争いのとばちりを母へ持って行って、とうとう別居を強要し、お常も「一人で暢気にしていた方がいい……」などと言って別れたのであったが、それ以来も浩平が相変らずちょくちょく母のところから自分の知らぬ出費を借り出しているらしかったのだ。が、おせきは努めて知らぬ振りを装い、母ももはや年が年だし……まず小遣銭の借り貸しぐらいは……とそんな風なところで納めていたのである。
それにしても依然として気持のいい筈はなかった。母の体臭のようなものを浩平の肌に感ずるようなことがあると、一週間でも十日でも、彼女は夫を突きとばして寄せつけなかった。いまもまた、あの、夫の何かしら不敵そうな、城壁を築いたような態度から、彼女は肥料代の
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