に死し、祖父母の許にあって成育した彼女と弟とのみが、辛うじて一人前になったが、いや、そのことよりも何よりもおせき兄弟を身も世もあらぬ思いに駆ったのは、「お前ら家のおっ母は誰某のメカケだっぺ、……」と言ったような同僚たちの嘲笑だった。
そのために兄弟たちは殆んど学校へも行く気になれず、いい加減のところでやめてしまい、祖父に従って百姓仕事に身をかくし、長兄の出奔後、おせきは十八歳でいまの浩平を婿にもらって、傾く身上を支えたのであった。弟の清吉は、これも十五のとき東京の工場へつとめることになって、後、電気会社に入り、いまは応召中である。
母のお常は家にいたりいなかったり、定まらぬ日常を送っていたが、四十五六の頃、身体を悪くしてからは余り出歩かず、いつの間にか昔の姿にかえって野良へも出るようになっていた。ことにおせきが次から次へと子供を産んで、ますます困窮の加わるここ数年間、全く母の手なしには、一家は「のたり切れ」なかったと言ってよかったのでもあった。
そんなことで、過去のことはいつか忘れられた。おせきが産後の摂養期にあるときなど、浩平とお常は自然同じ仕事に携わらなければならず、笠をなら
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