突っ込んでしまった。
浩平はみんなが寝床についてから、のそりとかえって来た。とうとう塚屋の前にかぶと[#「かぶと」に傍点]を脱いでしまった。――いや、脱がせられてしまった何とも名状しがたいいやな後味が、にがっぽく頭の中にこびりついていて、物をも言わず、彼は自分のお膳をひっぱり出し、ぼそぼそと冷たい麦飯を咽喉《のど》へ押し込んだ。
五
翌くる朝、ヨシ子はもうすっかり快くなって、起きるなり食べものをねだり、満腹すると歌などうたい出した。「五万何把の藁束分けて、隠れんぼどこかと探チてまわる。……」それは前の日、干しならべた小麦束の中でおちえから教えられた一節だった。そして
「きょうは、はァ、おまんま[#「おまんま」に傍点]しか何にも食べるんでねえど」と母親にしつこく念を押されると、
「う、ヨチ子、なんにも食べねえ……」
眼を伏せて、さすがに神妙な顔つきをする。
ところで今日は、いよいよ植付ができる段取りだった。あとから起き出して、もぞもぞ朝飯を終えた浩平が、
「俺は肥料を受取って来なけりゃならねえから、お前らさきに出かけていろな」と誰の顔も見ないで言った。
そこには何
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