李だのを、うんとこ[#「うんとこ」に傍点]食べていた」と白髪の村医は笑った。
 甘酸っぱいような水薬をつくって、その飲み方や、病児の扱い方などを細々《こまごま》と説明して、やがて医者は帰って行った。
 その頃、ヨシ子はもう殆んど平常の息づかいになって、すやすやと眠っていた。
 ところで、浩平はまだ野良から帰っていなかった。医者がやって来て病児の処置をしているうち、由次は黙って、いつの間にかえったか、風呂の下など焚きつけていたが、「お父は」と訊ねても、「いまにかえって来べえで……」と答えたばかりであったのだ。医者が帰ったあと、おさよがごそごそ台所で準備した夕飯を、おせきも子供らといっしょに食べ終ったが、それでも浩平はかえらない。
「お父は、組合さ行ったきりかい」とおせきが、そろそろ苛々しい気持になって、改めて由次にきくと、
「だもんか。野良から上りに、またどこかへ廻って行ったんだ。俺こと、さきにかえれなんて言って。」由次はぷすんとしている。
「馬鹿親父め、こんな騒ぎしていんのに……暢気《のんき》な畜生で、しようねえ。」
 おせきはぶつぶつと呟きながら、いったん出した浩平のお膳を戸棚の中へ
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