き出してから、「時に――」と塚屋は調子を改めた。「どうだや、旦那ら、はア、田植えっちまったのかい。」
「田か――田なんか俺ら植えねえつもりだ。今年は、はア、草っ葉に一任と決めた。」
「でも、それでは『増産』という政府の命令にふれべえ。」
「仕方ねえな。これ……」
「少し位なら、俺、都合つけるぜ。実はこないだからその方で、こうして歩いてるんだ。俺のような始末の悪いとんぴくれん[#「とんぴくれん」に傍点]でも、これで非常時となりゃ、いくらかまさか国家のお役に立たなくちゃア、なア。」
 そう言って塚屋は、悠々とポケットから巻煙草などをつまみ出し、一本どうだ、とばかり黙って浩平の眼の前へ袋ごと突き出した。
 浩平は「暁」を一本つまみ、
「やみ[#「やみ」に傍点]やって国家のためもあんめえ。」
 ははあ……と哄笑した。
「やみ[#「やみ」に傍点]なもんか。公定[#「公定」に傍点]で俺らやるんだ。」
「だって君、公定の配給肥料は産組でしか……」
「それはこの村での話、政府の方針としては産組に半々位に分けて配給させる方針でやっているんだぜ。」
「そうかな。……それはまア、どうでもいいが、早いとこ、何
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