は、すでにその方面から若干のものを手に入れて、どしどしと田を植えているのである。
「畜生――」と彼は思わずひとり言をかっとばした。「そんな大べら棒ってどこにある。」
「いよう、なんだや、今頃――」
 ひょいと横あいから自転車を飛ばして知合いの男が姿を現した。
「おう、君か――君こそ何だい今頃。」
「俺か――俺は商売さ。」
 ひらりと自転車を下りたその中年の男――選挙ブローカーもやれば、墓碑の下文字も書く、蚕種、桑葉、繭の仲買いもやれば、雑穀屋の真似もやると言ったような存在――俗称「塚屋」で通っているこの五尺足らずの顔面ばかりが馬鹿に大きく、両眼はあるか無きかの一線にすぎない畸形児風の男は、浩平をまともに見て、にやりと笑った。そして口ばやに、
「組合さお百度踏んでも肥料は来めえ。」
「組合長が県や政府や会社へお百度踏んでも駄目だっちだから、こちとら[#「こちとら」に傍点]がいくら、それ……」
「へへえ……」と塚屋は唇をひん曲げた。「組合長ら何処さお百度踏んだのかよ。今頃はエネルギー絞り上げられっちまって、死んだように寝てべえ。ホルモン注射でもしてやらなけりゃ、肥料も来めえで。」
 そう吐
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