、そこに百叺でも五十叺でもいいから、こっちへ取ろうという始末なんだから、これで、並大抵のことでは……」
「でも、山十(町の肥料屋)なんどへ行けば、一時の間に合せ位のものは、倉庫の中に昼寝しているっち話だねえか。どうだや、そいつを何とか、こうお上の力で、こっちへ廻してよこすような方法をとれねえもんかな」と中年の鬚もじゃ親父が言って、眼玉をぎょろつかせた。

     三

 それにしても、もうどんなに待ったところで、ないし別の方法によったところで、今日明日の間には合わないものと観念した方がよさそうだった。
「仕方ねえ、それこそ素田でも何でも植えべえ」と投げつけるようにいって浩平は起ち上った。
「そうだ、酢だとか蒟蒻《こんにゃく》だとか言っている場合じゃねえ。俺らもはア、すっぽりと諦めて明日は植えっちまアんだ。」さきにおばこ節を口誦んでいた一人の青年も、それにつれて突っ立ち上り、両手を天井へ届くほど伸ばして、ああ、ああ……とあくびを連発した。
 田圃への道を浩平は割り切れぬ気持でのそりのそりと戻りつつあった。町の肥料商の倉庫には確かに相当のストックがあることを彼も信じていた。小金の廻る連中
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