、どこか厚生省あたりの肝煎りで、特に組合が実行したに相違なかった。
「体温|計《はか》ってみたところで、稲は育つめえで」と一人が言って、浩平に話しかけた。「なア、よう、台の親方。」
「うむ、そうでもあるめえで」と浩平はそこにあった椅子へ腰を下ろしながら答えた。「田の体温でも計って報告したら、そのうちに、それ、何とか、その方の医者様がかけつけてくれべえから。」
「農学博士がか。」
「うむ、まァその博士なら、これで、無肥料で増産ちう一挙両得の方法も教えてくれべえからよ。」
「それもそうだっぺけんど、これで人間の方の温度も計る必要があっぺで。みんな、はア、肥料肥料で逆《のぼ》せ上っていっからよ。いい加減のところで血圧下げてもらアねえと、村中みんな脳溢血だなんて……」
「ところがどうも、その血圧、上るばって下りっこねえ。どうだ、今の電話きいてみろ。」
 奥の部屋で、なるほど電話している組合事務係のだみ[#「だみ」に傍点]声がしている。
「……うむ、そんな訳では……なるほどな……うむ、なアる……全く、どうも、いやはや……全くこれ困っちまアな。……いくらでもいいから……はん……ははア……いや、全く
前へ 次へ
全47ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
犬田 卯 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング