する落花とたなびく雲のたたずまいをあしらい、その表面へ大きく草の葉や小鳥を黄に染めぬいたその模様が、眠っても覚めてもちらついていた。誰にも売らないでおいて……と念を押しては来たものの、先方は商人である。そしてあれは商品である。一日も早く行かないことには、いつ買手がつくか分らなかった。――売れませんように、どうか、誰の眼にもつきませんように……こうして、五円という金のまとまるのがどんなに待ちどおしかったことか。
二
全身中どこを探して見ても無いと知って、しばし茫然として突っ立っていたが、やがて彼女は道を引返しはじめた。どこか途中に落ちているに相違ない。人が通るとはいっても、たいがいは自転車で飛ばすものばかりである。でなければトラックだ。小さい蟇口などよほど気をつけていなければ眼にとまるはずがない。国道へ出てから落したものなら、まだ落ちたままで、落し主が探しにやってくるのを待っていてくれるであろう。商人が座敷に座ったままでいて儲ける金とは、同じ五円でも、あれは違っていなければならぬ五円のはずだ。それにあの蟇口の片隅には自分の小さい写真が二三枚入っていたのだし、あの写真がしっ
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