たちが店へ入れば店員が見せるものは大方きまっている。二人の友達もきっとあのレーヨン錦紗の幾反かを見せられたに相違ない。いや、自分からそういって買っても買わなくても見せてもらったに相違ない。
「どんな模様のよ、それ。」
こんな模様だったと図にまで描いて「論議」した揚句、ついにそれならまだちゃんと残っていたっけ、ということになった。もっとも一反や二反売れても、あとにまだそれくらいはしまいこまれていたのかも知れないが、とにかく、それらしいのは残っていたことがおおよそ確実だった。
「じゃ、きっと有るな」と叫んだお通の顔は急に晴々しかった。
「有る、有る……」
「有っても銭がないとくらア、ばかだな、この人は。」
「可哀そうなはこの子でござい、か。」
「兄貴から取っ剥がすさ。」
「なアんで、そんなこと……そんなこと出来るくらいなら、はア、俺だって十円や十五円なくしたって、何でくよくよするもんか。」
「俺話して出させっか。」
ぺろりと舌を出してお梅さんがうつむいた。思いなしか顔がぱっと赤かった。
「それ、それ……」とお民がはやすと、
「でも、あの兄さん、いい人があるんだから俺らことなんか鼻汁《は
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