つけがましく叫んで、小遣銭かせぎの牛車をひき出して行ったのも彼女にとって癪でならなかった。
「俺も花見だ、俺ら朝っぱらからだ」と追いかけるようにいうと、
「また蟇口なくせ、失くした上に占師に見てもらって三円も損しろ。」
お通は地団太踏んで「失くすとも、この家の身上ぎり失くして、千円がどこも占いやって、借金こしらえてやらア。」
くさくさして仕方がなかった。本当にS川土手へ行ってやろうかと考えたが、もう母の財布にもそんなに金は入っていないことを彼女は知っていた。もっとも兄貴は相当持っているに相違なかった。豚を売った金だってまだそっくりしているはずである。今朝も、「失くしたものは、はア、いくら何といったって仕様ねえんだから、野良着だけは和一が買って来たら……」という母親に対して、「ばかな、俺ら今年は裸体《はだか》で田植だ」なんて罵ったくせに、あとでは二反買うのか一反でいいのかなどと聞いていたくらいであったが、でも、お通へは一銭だって出すまいとするのである。「そんなけちん[#「けちん」に傍点]坊なら誰が……たといやろうといったって貰ってやるもんか。」
お通は麦さく切りに出かけた。二三日く
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