見つけて、一里以内のところへ持ち去っている。それで、金はまだそのままそっくりしている。使いたくてもちょっと自分勝手には使えないような家の子供だ。」
「大尽どんの子供かな、では……」お通はひょっと心当りがして念を押した。
「そうでもねえが、家でやかましく躾けている子供だから、ひょっとすると持っているの悪いと思って駐在所へ届けっかも知れねえ。でなけりや、また、そうっともとのとこへ戻して知らん顔するか、そのどっちかだ。何にしてもこの金は、もとへ戻ると卦には出ているからな。」
 それから籠屋は、ばさりと本を伏せ、煙管へすぱりすぱりと息を通して刻み煙草をつめ、やおら言い出した。
「買いものに出るには日が悪かったな。先負の、東南方旅立ち事故生ずという日にあたっていたから、昨日は……午後からなら別段のことはなかったが。」
「そんなこと、やっぱり有るかしら。」お通は信ずることが出来なかった。
「まア、あるものと考えていれば間違いはねえな」と卜筮者はしごく鷹揚に構えて、「そんなことねえと思うと、ついうっかりして、どんなまねでもするし、あ、今日は悪い日だなと考えれば、何をするにも気をつけてやるようなもんで
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