にやっていた。どこと言ってこの辺の普通の百姓と変りのないその様子……身装《みなり》顔付、応対ぶり、それらが村人をして何の遠慮もなくここへ足を踏み入れさす原因かも知れない。お通も近所の人へ物をいうような口調で、昨日の一件をこの卜筮者にまで述べたてたのであった。
 すると籠屋は煙管を措《お》き、茶を一杯ぐっと傾けて、さて、表座敷の神棚から一冊の手垢《てあか》に汚れた和本を下ろして来て、無雑作にたずねはじめた。
「昨日の何時頃だったけや、家を出たのは……東の方角へ向ったんだな、それから南へ向って行った。と、朝の九時頃。」
 お通はどうせ見てもらうのなら出来るだけ委しく見てもらいたかったし、別に身の恥をさらすわけでもないのだからと思って、覚えているだけのことは残らずいうつもりだった。が、籠屋は自分の訊ねた以外の話は、ただうなずくだけで受けながし、じっと本を眺めていたが、お通が終らぬうちに言いはじめた。
「これは家からそんなに遠くないな、部落内《むらうち》だ。まア、遠くて坂の中途あたりまでだ。でも、はア、探すがものはねえ、子供の手に入っている、十歳から十二歳までの子供だ。よそから来て通りがかりに
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