の話をした。すると巡査は笑って、
「ようく探したか、どこか家の中へ置き忘れてでもいるんだねえか」と軽く受けた。
「そんなはずはないんですがね。」凋れるお通を見ると、それでも、「拾得人が届けてよこしたらすぐに知らせるから。――でも、何だな、もっとよく方々さがしてみるんだな。」
 そして自転車をとばして行ってしまった。
 お通は巡査のその態度に何だか悲しくなって胸がいっぱいだった。軽蔑していた占い者へ、やっぱりすがろうとする気持が、むらむらと起ってくるのを抑えることが不可能だった。占いをする人というのは渡りもので、十年ばかり前にこの村へ落ちつき、籠屋渡世をしているのだが、本職の方よりは、家の方位を見てくれとか、子供が長病いをしているが何かの崇りではあるまいか考えてくれとか、嫁取り婿もらいの吉凶から、夫婦喧嘩の末にいたるまで、あらゆる日常的な、しかしながら常識をもってしては判断のつかぬ事柄があると、きまって依頼されるその種の占いの方が収入になっていたのである。お通がこっそりと土間へ踏みこんだとき、この籠屋はまだ朝食をすましたばかりらしく、どてら着のまま長火鉢の前ですぱり、すぱり煙草をうまそう
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