て、すっかり赤くなってしまったのだった。
その故か、また鼻血がどっと出て来て、綾子のつめてくれた紙が、すうっと抜け出した。そして濃い真っ赤な血が、するすると口の方へ流れ下った。
「まあ……」
他の二人の女生徒は、おびえたように、両手を胸に合せて祈るような恰好をした。
綾子はしかし落ちついていた。またしても紙を丸めて自分から圭太の鼻へ強く栓をした。
「堅くしとかないと駄目よ、あんた。頭がぐらぐらしべえ。あんた突き落されたの?」
「いや、ただ落ちたんだよ。」
圭太は自分の弱虫が恥しくて、それ以上言うことが出来なかった。
彼は鼻を片手で抑えながら、片手で鞄を直して歩き出した。もう遅れたかも知れぬ。始業の鐘が鳴ってしまったかも知れぬ。
女生徒達もそのあとから駈けるようにしてつづいた。
四
その事があって以来、綾子と圭太の間が非常に近いものになったように思われた。彼らは腕白どもをよけるために時間をかれこれと考えたので、しぜん、道でいっしょになったり、いっしょになれば話し合ったりするのだった。
綾子は中学へ行っている兄を持っていた。さぶちゃんがこれ以上苛めれば、その兄
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