橋の上
犬田卯
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《》:ルビ
(例)苛《いじ》める
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(例)しっか[#「しっか」に傍点]と
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一
「渡れ圭太!」
「早く渡るんだ、臆病奴!」
K川に架けられた長い橋――半ば朽ちてぐらぐらするその欄干を、圭太は渡らせられようとしていた。――
橋は百メートルは優にあった。荷馬車やトラックや、乗合自動車などの往来のはげしいために、ところどころ穴さえ開き、洪水でもやって来れば、ひとたまりもなく流失しそうだった。
学校通いの腕白どもは、しかしかえってそれを面白がった。張られた板金が取れて、今にも外れそうになっている欄干へ、猿のように飛び乗り、ぐらぐらとわざと揺すぶったり、ちびた下駄ばきで、端から端までその上を駈けて渡ったりした。
たいがいの腕白ども――否、一人残らず彼らは手放しなんかで巧みに渡った。渡れないのは圭太一人くらいのものだった。
三年四年の鼻たれでさえ渡るのに! しかも高等二年生の、もう若衆になりかかった圭太に渡れない!
これは悲惨な滑稽事でなければならなかっ
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