た。
第一、餓鬼大将の三郎(通称さぶちゃん)の気に入らなかった。彼は権威をけがされたようにさえ思った。
もっとも、圭太はさぶちゃんの配下ではなかった。誰の配下にも属せず、一人、仲間はずれの位置に立っている彼だった。
というのは、さぶちゃんの腕力が怖いばかりに、誰も彼もさぶちゃんの好きそうなもの――メダルだとか、小形の活動本だとか、等々を彼に与えて、彼の機嫌を取り、その庇護の下に小さい自負心を満足させようとあせったのに、圭太には、それが出来なかった。長らく父が病みついている上に、貧しい彼の家は、碌々彼を学校へよこすことも出来ないのだった。
さぶちゃんの家は村の素封家だった。K川に添った田や畑の大部分を一人占めにしているほどの物持ちで、さぶちゃんはその村田家の次男だった。三年ほど、脳の病とかで遅く入学して、ようやく高等二年生になるはなったが、算術などは尋常程度のものでさえ碌に出来なかった。
彼の得意とするところは、自分より弱いものを苛《いじ》めることにあった。すでに「声がわり」のした、腕力といい、体格といい、すっかり若衆の彼に敵対するものは生徒中には一人もなかった。師範を出て来た
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