再び言った。「あんたのこと追ってたの見えたもの……あの不良のさぶのこと、校長先生に言いつけてやっか。」
憎々しそうに彼女は言った。他の二人の女生徒も同じようなことを言ってさぶちゃんをけなしつけた。
彼女らはやはり高等一二年の、しかもすでに娘の領域に入ろうとしている生徒達だった。さぶちゃんに姿を見さえすればからかわれ、悪戯されるので、学校の往復にも、なるべく彼を避けて、時間を遅く、あるいは早くしている彼女らだった。ことにその中の一番大きい子――秋野綾子は、さぶちゃんの――その年頃の恋人(?)だった。
ある日、さぶちゃんは母親の小さい懐中鏡を持って来て、綾子や、その他の大きい女生徒が何気なく塀などによりかかっているところの足許へそれを置いて歩いた。それを知った女生徒は、この思いがけない悪戯に真っ赤になって逃げ出したが、綾子は運悪くも、その一人に属していた。
「綾子の奴、もう……てやがるんだ! あっははっはあ……綾子の奴!……」
綾子は泣き出した……。
その綾子だった。それを知っていた圭太は自分もちょうどそうした生理的現象を見た直後だったので、綾子をそれほど近く自分の直ぐ眼の前に見
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