俺がついて番しててやる!」
さぶちゃんが言った。
もう学校は遅れようとしていた。誰一人通るものがなかった。隣村に下宿している一人の先生――それさえもう通ってしまったに相違ない。真っ直ぐな道を見渡しても、誰もやって来るものがなかった。
圭太は死んでもいいと思った。
「そら、こん畜生!」と言ってさぶちゃんに再びステッキを食わせられた瞬間、彼は腰に力を入れ、両脚を踏みしめ、しっかりと胸に鞄を抱き、右手だけをやや水平に差し伸べて、そして一歩踏み出した。
――みんなが渡るんだ。俺にだけ渡れないということはあるまい!
だが、二歩、三歩――もう駄目だった。眼の前には、長い長い糸のような欄干が、思いなしか蛇のようにうねうねして伸びている。その前後左右、また上下は、渦巻く青い流れであり、無限の空間である。糸――どこまでつづくか分らぬそのたった一本の糸のみが、自分を支えてくれる、そして自分の行かなくてはならぬ道である。
彼はふらふらとして、そのままぺしゃんこと、欄干へ蟹《かに》のようにへばりついてしまった。
「こら、臆病奴!」
「野郎、突き落せ!」
「突き落せ!」
実際、圭太の片足へ腕白どもの
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