を出す。
「下駄で渡れ!」
「裸足《はだし》で渡ったんでは、渡った分だないぞ!」
「さあ、早く!」
さぶちゃんは眼に角を立てた。
仕方なしに圭太は下駄を脱ごうとした。渡って見ないで渡れない圭太だった。それだけにもう身体がふるえてきた。
「下駄で渡るんだ!」
とさぶちゃんは命令した。圭太は反抗するだけの勇気がなかった。否、あったとしても今の場合どう出来るであろうか。
彼は片手でしっか[#「しっか」に傍点]と鞄をかかえ、脚に力を入れて立ち上ろうとした。が、駄目だった。下を見ると遙か底の方で、青い水がくるくる、くるくると渦を巻いて流れている。ちょっとでも手を離そうものなら、ふらふらと、そのままその中へ落ちてしまいそうである。――実際、いつの間にか、自分の登っている欄干が、橋もろとも傾いて、すうっと上流の方へ走っているような気さえしてきた。
「何びくびくしているんだ。早く! 早く渡るんだ!」
さぶちゃんはぴしり圭太の尻をなぐりつけた。
「これくらい渡れないで日本男子だアねえぞ! やあい、貴様はチャンコロか露助か、この臆病奴!」
「渡れなけりゃ、今日一日そこに突っ立っているんだ、いいか。
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