「こいつ、学校出来ると思って生意気なんだ。……学校ぐれえ出来たって何だっちだ。」
「なぐっちまえ!」
「圭太!」と再びさぶちゃんが言った。
 圭太は唖のように黙って突っ立っていた。
「こら! 貴様」
 どしんと胸をつかれて圭太はよろよろと二三歩あとへよろけた。
「綾子と貴様は、なんだ?」
「なんでもないさ!」
 圭太は一言答えた。
「いいか、貴様、話しなんかしたら、みろ、貴様本当に橋の上から川の中へ突っ込んでやるからな!」
「貴様ばかりでなく、誰だってそうだど」とさぶちゃんはつづけた。「俺、先生だって綾子と変な真似したら用捨はしねえ。ナイフで突っこ抜いてやるんだ!」
 それは綾子やその他の大きな女生徒に、笑いながら話をする若い先生に対する戦争の宣言でもあった。
 実際、若い先生達は、綾子の――ことは彼女の発達した肉体に異様な眼をそそぐのだ。
 彼らはそういう風にとっていた。
 さぶちゃんは、往きにもかえりにも、この頃では綾子を待ち伏せ、そして何かを話しかけたり、威しつけたりした。
 彼女は圭太のように意気地なしではなかった。さぶちゃんなんか恐れていないようだった。兄があるからかも知れ
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