見るからに逞しそうな、つやつやした、ようやく五歳になるかならないくらいの、油断もすきもならないといったようなやつだった。仙太はプログラムを見た。外国|擬《まが》いの長々しい読みづらい字がそこに書いてあった。しかし仙太は「なにくそ!」という気がした。絶対的にタカムラのものさ! 畜生、生命《いのち》張ってもいいや、彼はふらふらと柵をはなれて馬券売場へとんで行った。が、何ということだ! もう売場は閉まっていた。彼は汗びっしょりで、握りしめた五円札を拳ごと突き上げ、誰か一枚でもいいから譲ってくれないか! と叫ぼうとした。
が、そのとき、合図とともに五頭の馬はスタートを切っていた。喊声は地をゆるがして起った。半周にしてすでにはやく他の三頭の馬は二三メートルも引き離され、タカムラとテルミドールとのせり[#「せり」に傍点]合いになった。
――タカムラ!
――テルミドール!
声援は嵐のようだった。タカムラはテルミドールを抜いた。と思ううちに半馬身ほど抜かれ、さらにずっと抜かれるかと見るまに、反対に半馬身先に立つ――と思うと……まるでシーソーゲーム。――だが、最後の三周目だった、タカムラはとうと
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