競馬
犬田卯
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)贔屓《ひいき》に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)外国|擬《まが》い
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)かます[#「かます」に傍点]へ
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行って来るぜ……なんて大っぴらに出かけるには、彼はあまりに女房に気兼ねし過ぎていた。それでなくてさえ昨今とがり切っている彼女の神経は、競馬があると聞いただけでもう警戒の眼を光らしていたのである。
「今日は山だ!」
仙太は根株掘りの大きな唐鍬を肩にして逃げるように家を出た。台所で何かごとごとやっていた妻の眼がじろりと後方からそそがれたような気がして、彼は襟首のあたりがぞっとした。彼はそれを打ち消すように、えへんと一つ、咳払いをやらかしてそれから懐中へ手をやった。そこには五円紙幣が一枚、ぼろ屑のようにくしゃくしゃになって突っ込まっていた。
一度家の方を振返って見て、女房の姿が見えないのを確かめると彼はその紙幣をくしゃくしゃのまま引出して煙草入のかます[#「かます」に傍点]へ押し込んだ。貧すれば貪する! それは実際だった
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