。地道にやっていたのでは一円の小遣銭をかせぎ出すことさえ不可能な村人達は、何か幸運な、天から降って来るような「儲け仕事」をことに最近熱烈に要求した。
馬券を買うなどということもその一つの現れだった。世間がこんなに不景気にならない前は、そんなことはばくち[#「ばくち」に傍点]打ちのすることであり、有閑人の遊びごとであり、唾棄すべき破廉恥事に過ぎなかった。が、一枚の馬券がたった五分間で、五円も十円もかせいでくれる! そいつを考えるとなあ君、馬鹿々々しくって百姓仕事なんか……と捨て鉢気を起して、俺だって人間だ、馬券買って悪かろうはずはあるめえ!
みごとに五円札を二倍にも五倍にもして帰って来る者があったのである。そうした事実が――これこそまさに、求めに求めていた幸運、天から降るのか地から湧くのか知れないが、とにかく小判が転がっているようなものだった――そいつが疫病やみのように村人の魂へとっついてしまった。
競馬は春秋二季、あたかも農閑期に、いくらかの現なま[#「なま」に傍点]が――たといそれは租税やなんかのためには不足だったにしても――村人のふところへ宿かりした時分にあったのだ。仙太が今
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