は汗と埃りにまみれながらも太陽の如くかがやいていた。負けた人間のそれは瀕死の病人のように蒼ざめて、秋の木の葉のようにぶるぶるとふるえていた。
仙太は例の五円のぼろ札を手づかみにして突っ立っていたが、容易に売場へ近づくことが出来ないとともに、一方にはその負けた人間の顔が、自分自身の顔でもあるかのように怖ろしくなってきていた。
――そうだ、もしひょっとして……たとい運のいい日であったにせよ、一度や二度は負けないとも限らない。負けてこの五円すってしまったなら?……
女房の尖った顔……否、それよりも納税! 彼はその五円がどんな五円だかよく知っていた。
仙太はぎょっとして再びかます[#「かます」に傍点]の中へそれを押し込み、地獄へ落ちそうになって危く助かった人間のように、柵へしがみついた。
その時、次の勝負が始まろうとしていた。五頭の競走馬がスタートの線に並行しようとして、尻や胴を押し合っていた。見ると、その中の一頭は彼の知っている、そして彼のもっとも贔屓《ひいき》にしているタカムラという隣村の地主の持馬だった。
相手の馬もたいてい知っていた。ただ一頭新しいやつが加わっている。それは
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