いた新聞の一片――そこには無論、昨日の勝負が掲載されてあった――を引き出して、彼は熱心に眺め入った。もう組合せは相当興味のある部分へ入っていた。彼は出場するそれぞれの馬の名前、騎手の名前は殆んど知っていた。そしてどの馬がもっとも成績がよいか、どの騎手が最近出来が悪いか、などというかなり細かいところまで知っていた。
 しかし今日は新しい馬もだいぶ現れていた。それは穴をねらっての主催者側の作戦であることは分り切ったことだが、それが図に当って、場内は刻一刻熱狂してきつつあった。
 仙太もその空気に捲き込まれ、しばらくの間は夢中になって勝負を眺めていた。が、そのうちにいくらか冷静になった。ひょっと気がつくと、彼は勝負ごとに、自分が勝つと思った馬がいつも勝っていることに気がついた。――今日は運がいいぞ、畜生! 悔しさがもうむらむらと頭をもたげてきた。何故今の今、その勝負の馬券を買っていなかったのかと、そんなことが後悔されはじめた。彼は再び人混みを分けて馬券売場の方へ近づいて行った。見るとそこには勝負ごとに、熱狂し狂乱して、押し合い、へし合いしている人間の黒山、潮の差し引きがあった。勝った人間の顔
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