から。」
「それに、芸者をしている娘っちのも、最近、旦那が出来て、どこか、浅草とかに囲われているんだちけど。」
「それじゃ、月々の十五円も問題だってわけかな、これからは。」
「まア、自然そうなっぺな。いくら旦那だって、これで毎月十五円ずつ、妾が送るのをいい顔して見てもいめえしな。」
「結局、金だな。金せえあれば、人間これ発狂もくそ[#「くそ」に傍点]もあるもんか。金がねえから気がちがったり、自殺したりするんだよ。」
「ははははア……」と大笑いして、一座は、それから他の話題に移ってしまった。

     三

 村人殆んど総出で出征兵を送ったあと、また、親戚や近所の人達が集まって、「一杯」やっていた。
 するとそこへ四郎右衛門の老爺が再びのこのことやって来るのであった。庭先に立てられた「祝出征……」の旒《はた》を、彼はつくづくと見上げていたが、やがてまた、袖と袖の間に顔を埋めてさめざめと泣きはじめた。
 泣いては顔を上げて、風に揺れる旒をしみじみと眺め、そしてまたしくしくとすすり上げるのである。
 とうとう老爺は、みんなの集まっている縁先近くへやって来た。「諸君……」悲痛な叫びをまたして
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