れるなんて、自分の手足伐られるようだとか何とか、大変な見幕でいきまいていたっけで。」
「でも、権利あるめえから、伐られたって文句の持って行きどころがあんめえ。」
「それはそうだけんど、これで自分の生れた家となれば、たとい権利はなくても、眼の前で大きな木を伐っとばされれば、誰だっていい気持はしめえで。」
「半五郎も困ってやっだんだっぺけんど、少しひでえやな。」
半五郎というのは、同じ村の人で、他村から婿に来たものではあるが、娘を、この四郎左衛門の養女にやった――つまり他県へ出て大工をしている嗣子に子供がなくて、その人へ娘をやり、現在は大工なる人も死に、その娘の代になっている。そして遠方に身代を持っている関係上、親である当の半五郎が後見人として、こちらの家屋敷を管理している、という事情になっているのである。
「そこは人情でな、たとい厄介な奴がころげ込んで来ているとは思っても、爺様と相談づくでやるとか、いくらかの金を分けてやるとかすれば、あんなことにもならずに済んだんだっぺがな。」
「どうしてどうして、そんなことする半五郎なもんか、家の前の柿だってもぎらせまいと、始終見張っていたんだそうだ
前へ
次へ
全8ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
犬田 卯 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング