た。
「おや、まだ起きていたのかい」裏戸をがらりと引あけて、まるで寒風に追いまくられるように土間へ入って来た女房の顔は、しかし嬉しそうにかがやいていた。
「まさか隣の家なんか違ったもんだ。内祝だなんていっても、折詰ひいたり、正宗一本つけたり……俺ら三十銭じゃ気がひけちまって、早々に帰って来た。」
 言いながら彼女は炉辺へ寄って、新聞紙に包んだものを夫の前へ拡げて見せた。
「これ、よっぽどしたっぺよ、かながしらにきんとん、かまぼこ、切ずるめ、羊羹、ひと通り揃ってるもんな。それに二合瓶……やっぱり地所持は違ったもんだ。俺らもはア、孫のおびとき[#「おびとき」に傍点]の時や、いくらなんでもこれ位のことはしてえもんだ。」
「寒かっぺから、これ飲んだらどうだや」と彼女は二合瓶を傍の土瓶へあけて火の上にかけ、
「戦地からお艶らお父の写真来てたっけよ。一枚はこう毛のもじゃもじゃした頭巾みてえなもの冠って、剣付鉄砲かかえて警備についていっとこだっけが、一枚は上等兵の肩章つけた平常の服のだっけよ。眼がばかにキツかっけが、まさか戦地だものな……でも、おっかねえほど豊さんに似てたっけ……」
「そりゃ豊さんの
前へ 次へ
全7ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
犬田 卯 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング