おびとき
犬田卯

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)達磨《だるま》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)でれ[#「でれ」に傍点]助親爺
−−

     一

「いつまで足腰のたたねえ達磨《だるま》様みてえに、そうしてぷかりぷかり煙草ばかりふかしているんだか。」早口に、一気にまくしたてる女房のお島であった。「何とかしなけりゃ、はアすぐにお昼になっちまア、招ばれたもの行かねえ訳にいくかよ、いくら何だって……」
 向う隣の家に「おびとき」祝があって――もっとも時局がら「うち祝」だということだが、さきほどおよばれを受けたのであった。
「ほんの真似事ですがね、おっ母さんと子供らだけ、どうか来ておくんなせえよ。」「そうですけえ、まア、おめでとうござんすよ……じゃア、招ばれて行きますべよ。」
とは答えざるを得なかったものの、さて招ばれてゆくには、村の習慣として、ただでは行けなかった。三十銭や五十銭は「襟祝い」として包まなければならぬ。そしてその三十銭が――子供らは連れてゆかず、彼女ひとりゆくことにして――いま、問題だったのである。
 鶏は寒さ
次へ
全7ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
犬田 卯 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング