写真だもの……」と作造は酒の温るのを待ちきれず茶碗へ一ぱい注いでぐっと飲み干しながら笑った。
「それからお艶ら写真もお父へ送ってやったなんて、一枚残っていたっけ。人絹ものだが、でも立派なお祝の支度をして、ちゃんと帯を立矢にしめて、そりゃ可愛かったわ。豊さんもあれ見たらうれしかっぺで……女の子って可愛もんだな、ほんとに俺も一人ほしかっけ……野郎らばかりで、ぞろぞろ飯ばかりかっ食らいやがって……」
「出来ねえ限りもあんめえで……まアだ。」
「あら、この親爺め、はア、酔っ払って……駄目だよ、折詰へ手つけては……あしたの朝、餓鬼奴らに見せて喜ばせんだから……こんな旨いものめったに見られねえんだから……一口ずつでもいいから食わなけりゃ、餓鬼奴らも可哀そうだわ。お父は酒せえありゃ何も要るめえ。」
お島は折詰を再び新聞紙へ包んで戸棚の中へしまいこんでしまった。そして、
「ああ、寒む……どら、俺げも一杯くんな。自分でばかりいい気になって飲んでいねえで。」
「ああ、五十日ぶりの酒だ。腹の虫奴ん畜生がびっくりしてぐうぐう哮えてしようねえ。」
「俺の腹も一人前の顔してぐうなんて、鳴ったよ。ああ、じりじりと
前へ
次へ
全7ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
犬田 卯 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング