、取っかかるのがまた容易でない。しかし女房から頭ごなしにされると、何としても御輿《みこし》を上げずにはいられなかった。
「米糠三升持ったら何とかって昔の人はよくいったもんだ」と呟きながら彼は沼へ下りて行った。
二
沼の深みへはまり込んでしまって腰から下が氷に張りつめられ、脚を動かして泥から出ようとするがどうしても出られない……そういう夢を見て、はっと眼がさめると、いつの間にか子供らのために掛蒲団を引っ張り取られて下半身が本当に凍らんばかりになっていたのであった。隣家へ招ばれて行った女房はまだ帰っていなかった。ぴゅうぴゅうと北極からでもやってくるような寒風が、雨戸の隙間から遠慮もなく吹き込んで、子供らは眠りながらもしだいに毬のようにちぢかんでいる。
作造はそういう子供らから掛蒲団を奪うよりは、炉辺の方がまだましだと考えて褞袍《どてら》のまま起き出し、土間から一束の粗朶《そだ》を持って来て火を起した。思ったほど魚は捕れなかったが、それでも女房へ三十銭やって、あと「なでしこ」を一つ買うだけは残ったのであった。彼は脚から腰のあたりがややぽかぽかしてくると、新しく煙草へ火をつけ
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