して蓆の上で遊ばせ、自分では、学校へ行っている長男が夜警のとき寒くて風邪をひくからというので、ぼろ綿人の俄か繕いをはじめたのであるが、夫ほいっかな炉辺をはなれようとしない。
「どうするんだかよ」と再び彼女は突慳貪《つっけんどん》にどなった。「隣り近所の義理欠けっちう肚なのかよ。いつまでいつまで、ぷかりぷかり煙草ばかり喫んでけつかって……」
「いま考えていっとこだ。」
「いい加減はア考えついてもよさそうだねえか。あれから何ぷく煙草すったと思うんだ。」
「この煙草は安ものだから、いくら喫《の》んでも頭がすっきりしてこねえ。」
「でれ[#「でれ」に傍点]助親爺め、仕事は半人前も出来ねえくせに、口ばかりは二人前も達者だ。五十銭三十銭の村の交際も出来ねえような能なし畜生ならはア、出て行け! さっさとこの家から出て失せろ……」
 女房の権幕に作造はやおら起《た》ち上った。村の下に展《ひろ》がっている沼を見ると、女房とは反対に、いい按配風もないようである。鯰でも捕って売れば五十銭一円は訳のない腕を彼は持っていたのだ。百姓仕事は若い時分から嫌いだったが、魚捕りでは名人格と謳われていた彼だった。が、さて
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