生じている。つまり右の毛と種子とは反対側から出て、たがいに向き合っているのである。すなわち図上|左隅《ひだりすみ》にその毛の生じ具合《ぐあい》が示され、またそれとならんでその右隅には、成熟した毛が描かれている。子房《しぼう》がまだ若いときは(左側中央の図)、その各室内にまだ毛は生じていないが、花が終わって後|子房《しぼう》が日増しに大きくなるにつれ、漸次《ざんじ》にその外方の内壁《ないへき》から毛が生じ始める。そして後には図の下方にあるミカン半切《はんき》れ図が示すように、右の毛は嚢《ふくろ》の中いっぱいに充満《じゅうまん》する。
 右のとおり、その半切れ図で表《あらわ》してあるように、果実の中は幾室《いくしつ》にも分かれていて、この果実は実《じつ》は数個の一室果実から合成せられていることを示している。すなわち一花中に数子房があって、それがたがいに分立《ぶんりつ》せずして癒着《ゆちゃく》し、ここに複成子房をなしているのである。ゆえにその嚢《ふくろ》は数個連合してはいるが、これを離せば容易に離れて個々の嚢《ふくろ》となるのである。ただその外側に当たる外皮《がいひ》が割れ目なしに密に連合し
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