り、著《いちじる》しい長距《ちょうきょ》があって四方に突《つ》き出《い》で、下に向かって少しく弯曲《わんきょく》している。すなわちこれが錨《いかり》の手に当たる部である。
 この長い距《きょ》の底には、蜜液《みつえき》が分泌《ぶんぴつ》せられていて、花は昆虫の来るのを待っている。この虫媒花《ちゅうばいか》であるイカリソウの花へは長い嘴《くちばし》を出す蝶《ちょう》が訪れ、蜜を吸いに来て頭を花中《かちゅう》へ差し込むときその頭へ花粉を着《つ》けて、これを他の花の花柱《かちゅう》の柱頭《ちゅうとう》へ伝えるのである。そして花柱のもとにある子房《しぼう》が、ついに果実となるのである。
 花中《かちゅう》には四|雄蕊《ゆうずい》がある。その長い葯《やく》は、葯胞《やくほう》の片《へん》がもとから上の方に巻《ま》き上がって、黄色の花粉を出している特状がある。このような葯《やく》を、植物学上では片裂葯《へんれつやく》と称している。雌蕊《しずい》は一本で、緑色の子房《しぼう》とほとんど同長な花柱《かちゅう》が上に立っており、その頂《いただき》に花頭《かとう》があって花粉を受けている。
 葉は、地下茎
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