たって簡易《かんい》で且《か》つその草もじょうぶであるから、一度|栽《う》えておくと毎年その時季《じき》には花が眺《なが》められる。
 春に新葉《しんよう》と共《とも》に茎上《けいじょう》に短い花穂《かすい》をなし、数花が咲くのだが、ちょっと他に類のない珍《めずら》しい花形《かけい》である。これを地に栽《う》えるとよく育ち、毎年花が着《つ》く。東京付近のクヌギ林の下などには、諸処に野生しているから、これを採集して来《き》て栽《う》えるとよろしい。種類によっては白花のものもあるが、東京近辺のものはみな淡紫花《たんしか》の品ばかりである。
 花には萼《がく》、花弁、雄蕊《ゆうずい》、雌蕊《しずい》が備《そな》わっていて、植物学上でいう完備花《かんびか》をなしている。萼《がく》は元来《がんらい》、八|片《へん》よりなっているが、しかしその外側の小さき四片は早く散落《さんらく》し、内側の四片が残って花弁状を呈《てい》し、卵状披針形《らんじょうひしんけい》をなして尖《とが》り平開《へいかい》している。花弁が四個あって、前記|残留《ざんりゅう》の四|萼片《がくへん》と共《とも》に花の主部をなしてお
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