十種の薬の効能《こうのう》があるから、それで十薬という、といわれているのはよい加減《かげん》にこしらえた名で、ジュウヤクとは実は※[#「くさかんむり/(楫のつくり+戈)」、第3水準1−91−28]薬《じゅうやく》から来た名である。
この草は春に苗《なえ》を生ずるが、それは地中に蔓延《まんえん》せる細長い地下茎《ちかけい》から出て来る。茎《くき》は直立して三〇センチメートル内外となり、心臓状円形で葉裏帯紫色の厚い柔《やわ》らかな全辺葉《ぜんぺんよう》を互生《ごせい》し、葉柄本《ようへいほん》に托葉《たくよう》を具《そな》えている。茎《くき》の梢《こずえ》に直径一〜二センチメートルの白花を開くが、その花は四|花弁《かべん》があるように見えるけれど、これは花弁を粧《よそお》うている葉の変形物なる苞《ほう》である。そしてその花の中央から一本の花軸《かじく》が立って、それに多数の花を着《つ》けているが、しかしその花はみな裸で萼《がく》もなければ花弁もなく、ただ黄色葯《おうしょくやく》ある三|雄蕊《ゆうずい》と一|雌蕊《しずい》とのみを持っているにすぎなく、まことに簡単至極《かんたんしごく》な花
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