つ》け垂《た》れているが、その花には雄花《ゆうか》と雌花《しか》とが雑居《ざっきょ》して咲いており、雄花《ゆうか》は花中《かちゅう》に黄色の葯《やく》を球形に集めた雄蕊《ゆうずい》があり、雌花《しか》は花下《かか》に三つの翼《よく》ある子房《しぼう》がある。このように、一|株《かぶ》上に雄花《ゆうか》と雌花《しか》とを持っている植物を、植物学上では一|家花《かか》植物と呼んでいる。すなわち雌雄同株《しゆうどうしゅ》植物である。
 中国の書物には、秋海棠《しゅうかいどう》を一に八月春と名づけ、秋色中《しゅうしょくちゅう》の第一であるといい、花は嬌冶柔媚《きょうやじゅうび》で真に美人が粧《よそお》いに倦《う》むに同じと讃美《さんび》している。また俗間《ぞくかん》の伝説では、昔一女子があって人を懐《おも》うてその人至らず涕涙《ているい》下って地に洒《そそ》ぎ、ついにこの花を生じた。それゆえ、この花は色が嬌《あで》やかで女のごとく、よって断腸花《だんちょうか》と名づけたとある。実際にその咲いている花に対せば淡粧《たんしょう》美人のごとく、実にその艶美《えんび》を感得《かんとく》せねば措《お》か
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