の内の名である。右のゼガイソウは、すなわち善界草《ぜんがいそう》で、これは謡曲《ようきょく》にある赤態《しゃぐま》を着《つ》けた善界坊《ぜんがいぼう》から来た名である。
『万葉集』にこの草を詠《よ》み込んである歌が一つある。すなわちそれは、

[#ここから2字下げ]
芝付《しばつき》の美宇良崎《みうらざき》なるねつこぐさ、相見ずあらば我《あれ》恋《こ》ひめやも
[#ここで字下げ終わり]

 である。そしてこのネツコグサは、ネコグサの意で、オキナグサを指《さ》している。花に白毛が多いので、それで猫草といったものだ。
 このオキナグサは山野《さんや》の向陽地《こうようち》に生じ、春早く開花するので、子女《しじょ》などに親しまれ、その花を採《と》って遊ぶのである。葉は花後《かご》に大きくなる。根は多年生で肥厚《ひこう》しており、毎年その株の頭部から花、葉が萌出《ほうしゅつ》するのである。
 この草はキツネノボタン科に属し、その学名を Anemone cernua Thunb[#「Thunb」は斜体]. とも、また Pulsatilla cernua Spreng[#「Spreng」は斜体].
前へ 次へ
全119ページ中81ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 富太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング