くなり、多くの枝《えだ》を分かち、たくさんな葉を繁《しげ》らし、花が一株上に数百|輪《りん》も開花する。私は先年、この巨大な牡丹を飛騨高山《ひだたかやま》市の奥田|邸《てい》で見たのだが、この株《かぶ》はたぶん今でも健在しているであろう。これはその土地で、「奥田の牡丹《ぼたん》」と評判せられて有名なものであった。たぶんこんな大きな牡丹は、今日《こんにち》日本のどこを捜しても見つからぬであろう。もし果たしてそうだとすれば、これは日本一の牡丹であると折《お》り紙《がみ》をつけてよかろう。もしも高山《たかやま》市へ赴《おもむ》かれる人があったら、一度かならずこの大牡丹《おおぼたん》を見て来《こ》られてよいと思う。

[#「ボタンの図」のキャプション付きの図(fig46821_01.png)入る]

     シャクヤク

 和名《わめい》として今日《こんにち》わが邦《くに》では、芍薬をシャクヤクと字音《じおん》で呼んでいることは、だれもが知っているとおりであるが、しかし昔はこれをエビスグサ、あるいはエビスグスリと称《とな》え、古歌《こか》ではカオヨグサといった。
 エビスグサは夷草《えびすぐ
前へ 次へ
全119ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 富太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング