である。ゆえに、この草はいつも群集して生《は》えている。それはもと一球根から二球根、三球根、しだいに多球根と分かれゆきて集っている結果である。
 花が済《す》むとまもなく数条の長い緑葉《りょくよう》が出《い》で、それが冬を越《こ》し翌年の三月ごろに枯死《こし》する。そしてその秋、また地中の鱗茎《りんけい》から花茎《かけい》が出て花が咲き、毎年毎年これを繰り返している。かく花の時は葉がなく、葉の時は花がないので、それでハミズハナミズ(葉見ず花見ず)の名がある。鱗茎《りんけい》は球形《きゅうけい》で黒皮《こくひ》これを包み、中は白色で層々《そうそう》と相重《あいかさ》なっている。そしてこの層をなしている部分は、実に葉のもとが鞘《さや》を作っていて、その部には澱粉《でんぷん》を貯《たくわ》え自体の養分となしていること、ちょうど水仙《すいせん》の球根、ラッキョウの球根などと同様である。そしてそこは広い筒《つつ》をなして、たがいに重なっているのである。
 近来《きんらい》は澱粉《でんぷん》製造の会社が設立せられ、この球根を集め砕《くだ》きそれを製しているが、白色無毒な良好澱粉が製出せられ、食用に
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