ナというのが本当かも知れない。野州《やしゅう》〔栃木県〕日光の赤沼《あかぬま》の原では、そこに多いノハナショウブをアカヌマアヤメといっている。
 このノハナショウブは、どこに咲いていても紅紫色《こうししょく》一色で、私はまだ他の色のものに出逢《であ》ったことがない。そして花はなかなか風情《ふぜい》がある。

[#「ハナショウブの図」のキャプション付きの図(fig46821_13.png)入る]

     ヒガンバナ

 秋の彼岸《ひがん》ごろに花咲くゆえヒガンバナと呼ばれるが、一般的にはマンジュシャゲの名で通っている。そしてこの名は梵語《ぼんご》の曼珠沙《まんじゅしゃ》から来たものだといわれる。その訳《わけ》は、曼珠沙《まんじゅしゃ》は朱華《しゅか》の意だとのことである。しかしインドにはこの草は生じていないから、これはその花が赤いから日本の人がこの曼珠沙《まんじゅしゃ》をこの草の名にしたもので、これに華を加えれば曼珠沙華《まんじゅしゃげ》、すなわちマンジュシャゲとなる。そして中国名は石蒜《せきさん》であって、その葉がニンニクの葉のようであり、同国では石地《せきち》に生じているので、そ
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