ている常緑《じょうりょく》の宿根草《しゅっこんそう》であって、冬に葉のないショウブとはだいぶ異なっている。
この水に生《は》えていて端午《たんご》の節句《せっく》に用うるショウブは、昔はこれをアヤメといった。そして根が長いので、これを採《と》るのを「アヤメ引く」といった。すなわち古歌《こか》にアヤメグサとあるのは、みなこのショウブであって、今日《こんにち》いう Iris のアヤメではない。右ショウブをアヤメといっていた昔の時代には、この Iris のアヤメはハナアヤメであった。右 Acorus 属であるアヤメの名が消えて、今名《こんめい》のショウブとなると同時に、ハナアヤメの名も消えてアヤメとなった。
ハナショウブの母種《ぼしゅ》、すなわち原種のノハナショウブは、関西地方ではドンドバナと称するらしいが、今その意味が私には判《わか》らない。人によっては、道祖神《どうそじん》の祭りをトンド祭というとのことであるから、あるいはその時分にノハナショウブが咲くからというので、それでノハナショウブをドンドバナというのかもしれない。ドンドとトンドと多少違いはあるから、あるいはドンドバナはトンドバ
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