ゅうとう》へ、知らず知らず着《つ》けるのである。すなわち蝶と花とが、利益の交換《こうかん》をやっているわけだ。こうしてユリは子房《しぼう》の中の卵子《らんし》が孕《はら》み、のち種子となって、子孫を継《つ》ぐ基《もとい》をなすのである。
 たくさんあるユリの種類の中で、最もふつうで人に知られているものが、オニユリである。これは中国にも産し、巻丹《けんたん》の名がある。それは花蓋片《かがいへん》が反巻《はんかん》し、且《か》つ丹《あか》いからである。このオニユリの球根、すなわち鱗茎《りんけい》は白色で食用になるのであるが、少しく苦味《にがみ》がある。このユリの特徴《とくちょう》は葉腋《ようえき》に珠芽《しゅが》が生ずることである。これが地に落ちれば、そこに仔苗《しびょう》が生ずるから繁殖《はんしょく》さすには都合《つごう》がよい。
 またこのオニユリは往々《おうおう》圃《はたけ》に作ってあるが、なお諸処に野生《やせい》もある。おもしろいことには東京地方へ旅行すると、農家の大きな藁葺《わらぶき》屋根の高い棟《むね》にオニユリが幾株《いくかぶ》も生《は》えて花を咲かせている風情《ふぜい》であ
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