しぼう》が立っており、その頂《いただき》に一本の長い花柱《かちゅう》があり、その末端《まったん》はすなわち柱頭《ちゅうとう》で三耳形《さんじけい》を呈《てい》し、粘滑《ねんかつ》で花粉を受けるに都合《つごう》よくできている。右のように花の中にある子房《しぼう》をば、植物学上では上位子房《じょういしぼう》といっている。
 ユリの花は著《いちじる》しい虫媒花《ちゅうばいか》で、主として蝶々《ちょうちょう》が花を目当《めあ》てに頻々《ひんぴん》と訪問する常得意《じょうとくい》である。それで美麗《びれい》な花色《かしょく》が虫を呼ぶ看板《かんばん》となっており、その花香《かこう》もまた虫を誘《さそ》う一つの手引《てび》きを務《つと》めている。訪問客、すなわち蝶々はその長い嘴《くちばし》を花中へ差し込み、花蓋《かがい》のもとの方の内面に分泌《ぶんぴつ》している蜜《みつ》を吸《す》うのである。その時、その虫の体も嘴《くちばし》も葯《やく》に触《ふ》れて、その花粉を体や嘴《くちばし》に着《つ》ける。そして他の花へ飛びあるいた時、その着《つ》けて来た花粉を粘着《ねんちゃく》する雌蕊《しずい》の柱頭《ち
前へ 次へ
全119ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 富太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング