ある。
 スミレの葉は花後《かご》に出るものは、だんだんとその大きさを増し、形も長三角形となって花の時の葉とはだいぶ形が違ってくる。
 スミレの果実は三|殻片《かくへん》からなっているので、それが開裂《かいれつ》するとまったく三つの殻片《かくへん》に分かれる。そしてその各|殻片内《かくへんない》に二列に並《なら》ぶ種子を持っている。殻片《かくへん》が開いたその際は、その種子があたかも舟に乗ったように並んでいるのだが、その殻片《かくへん》がだんだん乾《かわ》くと、その両縁が内方に向こうて収縮《しゅうしゅく》、すなわち押し狭《せば》められ、ついにその種子を圧迫《あっぱく》して急に押し出し、それを遠くへ飛ばすのである。なんの必要があってかく飛ばすのか、それは広く遠近の地面へ苗《なえ》を生《は》えさせんがためなのである。
 またそれのみならず、その種子には肉阜《にくふ》(カルンクル)と呼ぶ軟肉《なんにく》が着《つ》いていて、これが蟻《あり》の食物になるものだから、その地面に転《ころ》がっている種子を蟻《あり》が見つけると、みなそれをわが巣《す》に運び入れ、すなわちその軟肉《なんにく》を食い、そ
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